筒井康隆の『幻想の未来』を読む。

幻想の未来 (角川文庫 緑 305-1)

幻想の未来 (角川文庫 緑 305-1)

 処女作にはその作家のすべてがある、という陳腐な言葉をそのまま使いたくなる。ずっと筒井のSFを読んできたがこの中編のような長編はまだ読んでいなかった。
 その筒井としては異色作といわれるこの『幻想の未来』はたしかに叙情的な傑作だがその描写はタブーなしのエロもグロも何でもありの未来思想叙事詩だ。
 ゾンビのごとくの醜いからだを持っていたり、食人をしたりというタブーなしの現実のなかで核戦争前の意識との深い対話がおこなわれる。
 黒い表現で深い思索という筒井のふだんは悪ふざけの中に隠されている本当の資質がよくわかるSFなのだ。
 いまこそ必読だ。